べーシックインカム05 | ぷりゅすの休日

べーシックインカム05



ベーシックインカムのもたらす社会的影響を考える時に

ひとつ参考になるのは ヨーロッパ近代における

ランティエ金利生活者の存在です

あまり知られてないことですが ヨーロッパでは17世紀から20世紀の初めまで

250年近く貨幣価値の変動がありませんでした

だから 先祖が住んでいた家に住みありものの家具漆器を使っていれば

遺産の公債や国債の金利だけで一生働かずに暮らすことができました

高等遊民っていうやつです

それなりの教育を受け 教養もあり 小銭と有り余る暇があるのが

ランティエ金利生活者です

その人たちが同世代の新しい芸術運動や学術や冒険の最大の支援者であり

享受者でした

面白い芝居がかかっていると聞けば見に行く

才能ある詩人が登場したと聞けば朗読会を企画する

新しい哲学が出てきたと聞けば夜を徹して論議する

極地探検に行くという話も 暗黒大陸に行くという話も

成層圏で気球でのボツという話も 真っ先に食いつくのはこのランティエ金利生活者たちでした

何しろ暇で 小銭があって 新し物好きなんだから なんでも飛びつく

近代ヨーロッパの文芸と学術を支えたのはこの旦那衆です

ランティエ抜きにヨーロッパの近代の知性の歴史を語ることは出来ません

でも このランティエは第一次世界大戦勃発と同時に消滅します

貨幣価値が一気に下がり 金利で暮らすっていう生活が不可能になったからです

だから 対戦間期のヨーロッパの文学と哲学があれほど暗鬱で

不安と危機の話ばかりしているのは
 
暇で 小銭があって 一生好きなことをして暮らせた好事家たち が

没落して窮迫したり 生活のために安月給の奉仕生活者になったことへの

怒りや悲しみが一因ではないかと考える人もいます


ベーシックインカムについての提案は できれば受給者たちの一部が

それによって21世紀のランティエになってくれることです


お金は生活するギリギリしかないけれど 暇と好奇心と冒険心だけは

売るほどあるっていう人たちが それなりの頭数存在することは

社会を風通し良いものにする上で大変に有効だからです

彼らが社会にもたらすブラスが 制度に依存して無為徒食するだけの

何もしない人たちのもたらすマイナスより少しでも大きければ

それは制度としての成功だって判断しても良いと思います


終わり

 

GQJAPAN 内田樹コラム コラージュ